Patrick Williams and his Big Band
"Sinatraland" EMI-CAPITOL 72438-21045-2-0
Pat Williams は普段は Barbra Streisand, Dionne Warwick, Billy Joel, Gloria Estefan, Bill Watrous等にスコアを提供し、グラミー賞2回、エミー賞3回を受賞しています。その華麗で、且つ細やかな神経の行きとどいたアレンジは(特にストリングスの扱いは見事)名手と知られています。その彼が Frank Sinatra の最近のアルバム「Duets」「Duets II」に音楽監督として参加、その時のアイデアから生まれたのがこのCDです。全12曲は、全て1930〜40年代に作られたスタンダードで、シナトラによって大ヒットした曲ばかり。シンプルでストレートなアレンジにのって、バンドが明るく鳴りまくっています。

さて、このCD の最大の売り物は、各曲でフィーチュアされたソリスト達の顔ぶれと見事なプレイです。Phil Woods(as. 2曲), David Sanborn(as), Tom Scott(ts), Eddie Daniels(cl.2曲), Warren Luening(tp), Bill Watrous(tb), Hubert Laws(fl), Phil Teele(b.tb), Mitchel Forman(p), Peter Erskine(dr) 等が、それぞれ1曲づつフィーチュアされ、テーマとインプロビゼーションを演奏していますが、全体の構成や、バックのオーケストラとのバランスをよく考えた、それでいて自分の個性をしっかり出す、各ソロの音楽的センスには脱帽です。そんな中でも私は Phil Woods と Eddie Daniels が特に印象に残りました。またバックのオーケストラにも全曲参加し、ブラシを使った「Cute」風なアレンジでフィーチュアされた Peter Erskine と、ソロはもちろん、ソロ以外でも、随所にキラリとしたコンピングを聞かせる Mitchel Forman は、このCD の成功(私はそう思っています)に大いに貢献しています。

このコーナーを書くにあたって、もう一度頭から通して聞いてみると、このアルバムには新しいサウンドやアイデア、冒険、メッセージは、全くと言っていいほどなにもないかもしれません。野球に例えるなら、少なくても日本のプロ野球のような、バントや敬遠の4球、複雑なサインや相手の裏をかく心理的作戦はここにはありません。あるのは、力を込めて直球を投げこむ投手と、それを思いっきり打ち返す打者との闘いが基本のアメリカ大リーグ、それもオールスター・ゲームのような華やかさのみです。こういうアルバム(伝統)があるからこそ、個性的なアルバム(新しいサウンドに挑戦)が生まれて来て、認められるのではないでしょうか。
(1998/2/15)

Duke Pearson's Big Band
"Introducing" Blue Note TOCJ-4276
今月の推薦CDは、'97年9月に日本の東芝EMIから初CD化された、ちょうど30年前の'67年に録音されたゴキゲンなアルバムです。

リーダー、アレンジャー、ピアニストのDuke Pearsonは、'32年生まれの当時35歳のバリバリ。彼は、デビュー当時はピアノ・トリオの作品が多かったが、次第に数本のホーンを加えた周到なアレンジされた作品に移り、ついにこのアルバムでビッグ・バンドに到達しました。彼はバンド結成にあたり、自分が書いた譜面を正確に演奏でき、かつその音楽が理解できる優秀なミュージシャンを基準にメンバーを選びました。Randy Brecker, Marvin Stamm(tp) Garnett Brown, Julian Priester(tb) Jerry Dodgion, Frank Foster, Lew Tabackin, Pepper Adams(ww) Bob Cranshaw(b) Mickey Roker(dr)等、当時の若手実力派がキラ星のごとく並んでいることからも、このバンドの凄さが想像できると思います。

全9曲のうちオリジナルが4曲。やはり当時若手のChick Coreaの"Straight Up and down"やJoe Sampleの"New Time Shuffle"や、流行していたポップスの"A Taste of Honey"。その他スタンダード等など、曲目も変化に富んでいます。

彼はその後、同じBlue Noteに"Now Hear This"というもう一枚だけビッグ・バンド・アルバムを残し、若くして亡くなりました。
当時は、他にもThad Jones & Mel Lewis, Oliver Nelson, Clare Fischer等々、優秀なリハーサル・ビッグ・バンド全盛時代で、そんな中でもお薦めなのがこのアルバム。しかも値段が1,800円。今買い逃すと次いつ買えるかわからないですよ。(1998/1/16)

P.S. 最近このアルバムの輸入盤を店頭で良く見かけます。輸入盤には同じBlue Note から出ていたもう一枚の "Now Hear This" から、ボーナス・トラックとして6曲が追加されており、たいへんお得です。
(1998/10/4)

Jack Sheldon (tp. vo) and his Big Band
"Sings" Butterfly BCD 7701
"Jack Is Back!" Butterfly BCD 7702
今月は、いつもと少々雰囲気を変えて、ヴォーカルとトランペットとビッグバンドのアルバムを紹介します。
最近気に入っているビッグバンドのアレンジャー3人がいます。ベテランのBill Holman, 自身のオーケストラのリーダーで、ベーシストでもあるJohn Clayton, そして、この2枚のアルバムのアレンジを担当したTom Kubisの3人です。Tom Kubisは自分のビッグバンド・アルバムもすでに5枚程出していて、このところ全く絶好調だが、彼の新鮮かつオーソドックスで、ユーモアいっぱいのアレンジは、この2枚のアルバムでも、Jack Sheldon の個性的なキャラクターにぴったりだし、バックのビッグバンドを御機嫌にドライヴさせています。

Jack Sheldonはウェストコースト・ジャズ全盛時代に大活躍したトランペッターで、その後ハリウッドで映画やテレビの俳優に転身。近年またトランペッターとしてもカムバックした変わり種で、数年前には Mel Tormeと共に、Marty Paich Orch.の一員として来日もしています。彼の良く唄うトランペットはもちろん超一流ですが、最近の彼の魅力はなんといっても、サッチモばりのしわがれ声と、それにぴったりマッチしたユーモア溢れる唄にあるようです。この2枚のアルバムでは、彼のそんな魅力とビッグバンドがいっぱいで、文句なく楽しめます。

曲目も、"Sings"では"Mack The Knife" や"Just Friends"。"Jack Is Back!"では"The Man I Love"や"New York, New York" 等々お馴染みの曲が多く、どれもこれも楽しめ、なかでも"Sings"の中の"Historia De Un Amor"には、思わずニタリとさせられる人も少なくないでしょう。この年末年始には、家でこんなハッピーなアルバムでリラックスしては如何でしょうか。

Bette Midler が主演した7〜8年前の映画「For The Boys」のなかで、Jack Sheldon Orch.の演奏場面があります。ジャズ・シンガーとコメディアンとの、愛と一生を主題にしたこの映画も、なかなか面白いですよ。(お近くのレンタルビデオ店にあると思います)
(1997/12/21) 

Joe Roccisano Orchestra
"Leave Your Mind Behind" Landmark LCD-1541-2
世間一般には余り知られていなくても、仲間内からは大変高い評価を受けているミュージシャンは決して珍しくありませんが、今回紹介するJoe Roccisanoも、典型的なそんな一人です。彼は'70年代からLAを本拠に、Ray Charles, Don Ellis, Louie Bellson, Super Sax等で活躍したアルトサックス奏者兼アレンジャーで、'85年にNYに移ってから結成したのがこのバンドです。
'94暮れに録音されたこのバンドの2枚目のアルバムのメンバーには、Greg Gisbert, Tony Kadleck(tp) Jim Pugh, Dave Taylor(tb) Lou Marini(as) Tim Ries(ts) らNY在住の実力者揃いです。そんな中では、いつもはバリトンサックス奏者として大活躍しているScott Robinsonがテナー奏者として参加し、'Round Midnightではフィーチュアされ見事なソロをしているのが印象的です。また永年Rob McConnell and the Boss Brassに在籍し、最近ではToshiko Akiyoshi Orch.でもプレイしている、ドラムのTerry Clarkeの繊細かつ奔放なプレイがバンドに見事にマッチしています。

全11曲中5曲は彼のオリジナルで、その他の曲ももちろん全部彼のアレンジです。彼のアレンジの特徴は、ビッグバンドの伝統的な要素プラス、より自由なコンボのフィーリングと発想を大胆に取り入れたところ。またハーモニー的には、あきらかにギル・エバンス系の影響を受けているが、見事に消化されて取り入れているので、少しの違和感もないどころかとても新鮮です。後期('80年代の)のジェリー・マリガン・オーケストラに通じるところもある魅力的なサウンドがしています。
彼は'78年にWoody Herman Bandに、当時超売れっこだったグループ「Steely Dan」の曲をアレンジして、グラミー賞にノミネートされたことがありますが、このアルバムでも2曲アレンジしており、どちらもとても良いできです。但し「Take Five」も入っているのですが、この曲に限り余り面白くありません。
マイナー・レーベルから発売されているので、ほとんど店頭では見かけないが、まだ通信販売の輸入業者から手に入るようなので、興味のある方には是非一度聞いて欲しいアルバムです。
(1997/11/16)

George Graham Big Band
"With A Lot Of Help From My Friends"  Sea Breeze Jazz SB-2089
George Graham は、主にアメリカ西海岸で活躍しているリード・トランペッターで、「The Bob Florence Limited Edition」 や 「Tom Kubis Big Band」 等のバンドでもリード・トランペッターとしてアルバムに参加しています。数年前には、Benny Carter Orch.の一員として来日もしています。
その彼の初めてのリーダー・アルバム(多分)がこのビッグ・バンドの CD で、メンバーは彼の友人達を中心に錚々たる顔ぶれで、全く見事なアンサンブルを聞かせて彼を盛り立てています。なかでも Bob Florence は素晴しいアレンジを2曲提供すると共に、ピアニストとしても全曲に参加しており、自分のバンドの時とは一味違ったプレイをしているのも注目です。

さて、このアルバムにおける彼のプレイですが、ハイ・トーン・ヒッターがリーダーですから、当然ブラスが鳴りまくったエキサイティグなサウンドを想像しがちですが、全曲でフィーチュアされた見事なインプロヴィゼーションと、特にその美しい音色をいかした丁寧な演奏は、大変音楽的にまとまっています。最近つい忘れがちな、大人のビッグ・バンドに必要な、基礎的な部分の大切さを思い起こさせてくれます。

全11曲からなる曲目は、「My Funny Valentine」や「Stardust」のおなじみの名曲から粋なオリジナルまで変化に富んでいますが、大部分のアレンジを担当した Tom Kubis のおかげで、伝統と新しいサウンドがしっくりとミックスした見事なビッグ・バンド・ジャズ・アルバムと仕上がっています。なかでも Ramon Flores のアレンジした「マカレナ」は、前半のじっくり聞かせるメロディーの部分と、後半のチック・コリア風な展開が面白く、この曲に挑戦したいアマチュア・バンドも少なくないでしょう。
(1997/10/30)